電車の踏切を横切っていると知り合いに出会った。
「よう」
相手が声を掛けてきたので、足を止めた。
「久しぶりだな」
そいつは笑った。嫌な笑みだ。自分がこいつを嫌いだったことを思い出す。
ついでに思い出した。
「お前、たしか死んだと聞いたぞ」
そいつはもう一度笑ってから答えた。
「そんなわけないだろう。現に俺はこうして生きている。お前、嘘を吹き込まれたんだよ」
そうだろうか?
「いや、あいつは嘘を言う奴ではない。嘘をついているのはお前だ」
「おいおい、何を言い出すんだ。俺は・・」
「いいや、俺はお前よりはあいつを信じる。お前は死んだ」
その瞬間、そいつは消えた。
周囲に光景と音が戻って来た。踏切信号の警報機がけたたましく鳴っている。下りた遮断機の向こうで人々が俺を指さして騒いでいる。
レールの上からどいて、遮断機を潜る。直後にすぐ後ろを特急列車が風を叩きながら通り過ぎていく。
どこかで舌打ちする音がした。