「ここのバーの三階って何の店?」
バーで見える人のGさんが訊いた。
ここは一階はラーメン屋、二階はこのバー。三階は無い。
「でも上の階に大勢の気配がする」
Gさんの勘は確かだ。その言葉はいつも正解を射抜く。
お隣のビルはもう三人ほど飛び降りが続いている。外で大きな音がしてガス爆発かと思って従業員が店を飛び出すと、これが飛び降りの音なのである。
きっとそんな連中が集まって、店の屋根の上で宴会でもやっているのであろう。
同じく見える人のSさんから聞いた話。
「部屋に居てこうお茶を飲んでいるじゃないですか」
うんうん。
「すると陶器のお茶碗だから、周りの光景がお茶碗の外側に写り込むじゃないですか」 うんうん。
「それがまったく別の景色なんですよ。部屋の中が映っているのではない」
何が映っているのかまでは聞かなかった。
我々の世界には他の世界への枝がいくつもついている。それは我々の住む世界に重なってひっそりと息づいている。
たまに間違ってそこに迷いこむ者も出るので、足を一歩踏み出すときはきちんと気をつけてこの世の端からはみ出さないように歩かねばならない。