高校の頃、密教系の新興教団に入った。
引き続く怪奇と金縛りに悩まされた結果である。当時発足してより日が浅いが日本中に広まりつつあった新興教団であった。
やがては大きく馬脚を現す教主もまだぞれほど醜いところを見せてはおらず、ある程度は期待できる状態であった。
新興教団の内部はまさに驚きの世界であった。教団側の人間は強欲で愚鈍でろくでもなさ全開であり、またそこに入って来る人間が魂の救済などどこ吹く風のどうしてこれで仏の足下に近寄ろうと考えたのかと呆れさせる人間たちばかりであった。
教団の中は誰がどれほどの手柄を立てたとか、それ先祖供養だ十万円だから始まえり、御祈願の護摩木を百本売っただ、千本売っただの金金金の話で埋まっていた。
宣伝用のビラ配りに駆り出された。赤く塗った地図を前に説明が始まる。
「この地域はボクが一人で配りました」
鼻高々に指導員が説明する。次に今の地域の横を指す。
「ここもボクが配りました」
結局は自分が配ったところをすべて自慢するまで、どこに配るべきかの説明は行われなかった。
それが終わると全員で指定の地域に向かう。何人かが手持ちのビラを配り終えると良い歳をしたおじさんが言い出した。
「ここには四人いるからバスに乗るよりタクシーで帰ろう。その方が安い」
自らタクシーを止めると奥の席を進めてきた。
「さあどうぞどうぞ」
ようやく教団の支部に帰り着きタクシーが止まると私を除く全員が一斉に飛び出した。私一人を残し振り返ることもなく支部へと飛び込む。つまりは最後に残された一人に運賃をすべて出させるのが最初からの目的だったわけだ。なるほどこの方が安くつく。一番若い高校生の男の子に支払いを押し付けて逃げるとは。
魂の救済? それって美味しいの?
そんな世界である。
ある時は祈願用の護摩木を真っ黒に塗って納められたことがある。護摩木とは細い木の札で、そこに願い事を描いて御仏の元へお焚き上げするためのものである。
それは護摩木を黒く塗ったもので、様々な呪詛が書き込んであった。それも大量に。 流石に問題となり、当の護摩木は本部へと引き取られていった。
一事が万事この調子。業を払いにきたはずが業を積む。
いやむしろ一般社会では受け入れられないろくでなしどもがここなら排除されないだろうと集ったというのが正しい。そしてそういう者たちに開運グッズなどを売りつける目的で集まった者たちが加わる。
まさに人間のどうしようもなさを見せつけられる教団であった。
だがそれでもこの教団に入って以来、金縛りはピタリと収まった。
密教の技法も少しは習った。今ではネットで簡単に調べられる程度のものだが、それでも役には立った。
しかし怪異自体は続いた。日常の怪異がこの教団の怪異に置き換わっただけである。
この本ではその教団内部で見聞きした怪異を記述する。