来るべきもの銘板

来るべきもの 真夜中の占い師

 私の趣味の一つにタロット占いがある。
 このカードが日本でブームになったのは、その昔流行ったオカルト漫画「後ろの百太郎」の中で紹介されてからで、御多分に漏れず、私もそれでハマった口である。

 タロットカードが好きだ。
 それも小アルカナまできちんと絵が描かれている一番有名なライダー版ウェイトが好きだ。
 これはライダー社から出版されたカードで、魔術師ウェイトがデザインしたというのが売りである。タロットカードには色々な種類があるが、ルノルマンドと呼ばれるタロットカード以外はすべてこのウェイトをベースとして絵柄にわずかな変更を加えたものばかりだ。
 タロットカードの起源はエジプト神官たちが使っていたトートの予言書であり、これは黄金板でできた本の形態をしていて、各ページは取り外せるようになっており、占いに用いられていた。タロットカードはこれを源流として発展し、やがて小アルカナは分離してトランプを生み出し、道化師のカードはジョーカーと変化した。
 ・・・などと言うのは真っ赤な嘘である。とにかく、何か古くて権威ある伝説を取り込んで箔をつけようとするわけで、この手の嘘はおとぎ話を連想させる。
 本当はタロットカードの歴史は短く、発祥は近代である。トランプの原型となったというのは逆で、トランプをベースにしてタロットカードが生まれたというのが正しい。
 考えてみれば判る。黄金板をカードの材料に使えば、占いをするのに重くて不便だ。それに巻物全盛の時代に本の形に仕上げるという発想は無い。
 魔術師ウェイトもオカルト界では偽魔術師として評価は定着している。つまるところ、タロットカードは歴史も製作者もすべて偽物から始まったものなのだ。

 だが、当たる。

 真実が嘘となり、嘘が真実となる。オカルト学ではこれを対向流と呼ぶ。悪魔を生み出したのは神であり、キリストの聖杯は元は堕天使ルシファーの額にあった宝石である。(インディ君、君は間違っていたわけだ)
 善と悪、光と闇、相互に対立する要素がお互いを食らい合い、かつ生み出し合う。世界というものはその円環からできている。

 もちろん私も、最初はなかなか当たらず苦労した。色々なタロットの教科書を読んだが、当たるようにはならなかった。それも道理、今から振り返ってみると、読んだどの本にもタロットの占いの手順は載っていたが、本当に必要な「占理」や「占機」について何も書かれていなかったからだ。修行者が自分で辿り着くようにわざと書いていなかったのか、あるいは、著者たち自身がこのどちらも理解していなかっただけか。


 下手の横好きだった私はある夜、不思議な夢を見た。それはタロットカードの夢であった。

 無数の巨大なカードが虚空に浮かび、私はその中を旅した。後にカバラの技法の中に似たような修行法があることを知るのだが、それと同じものかどうかは判別がつかない。
 タロットカード自体がその存在を語った。彼らは異世界の窓であり、それこそが世界の裏側に存在する真の世界を覗くための方法なのだと。
 夢から覚めたとき、覚えていたカードの絵柄はたった3つ。

 炎の中の双頭のサラマンダー。
 城門とその前に佇む閉めだされた男。
 三叉路で迷う人。

 残念ながらその他の絵柄は忘却の彼方。だがもしや、いつの日にか思い出すことができるかもしれないと、そういまでも思っている。