タヌキが部屋に出た。その正体を見抜いた後もタヌキは私の部屋に出てさまざまな幻を見せてきた。
しばらくは古代ローマの戦争風景を見せてきていた。
よほど暇であったらしい。
その後、迂闊に行った呪法の越法(罰)を受け(これはまた別の話)、体を壊して入院した。
入院中困ったのは飼い猫の世話である。そこで猫友達の申し出を受け、通いで猫の世話をしてもらった。まさに頭の下がる思いである。
問題はそこで起こった。
以下に彼女の証言を挙げる。
「亀戸駅から電車に乗ってね、錦糸町から両国と乗り進んでいったのよ。そしたら、次の駅がまた亀戸って」
断っておくが中央総武線は環状線ではないし、長い長い路線だ。折り返すまで最低1時間はかかる。どうやらこのとき、タヌキが彼女に付いていったらしい。
「最近、うちにタヌキが出るの」
彼女がそういうのを聞いて驚いた。
花束を見せるのだそうだ。赤い花の花束を。花びらの一枚一枚までくっきりした見事な出来であったそうな。何日かそれが続いた後に、花束は花の咲く木に変化した。
「たぶん、百日紅だと思う」
タヌキがそちらに移ってから一年になる。百日紅の木ははらはらと花びらを散らしながら、今も夜の闇の中に浮かんでいるらしい。
このことで一つわかったことがある。このタヌキはオスに間違いない。