知人のGさんは所謂見える人である。特にGさんの能力は夢に特化しており、彼女の見る夢は常人とはかなり異なったものとなる。
「一つ教えて欲しいことがあるんですけど」
彼女から連絡が来た。
「夢の中で白いオオカミと黒いオオカミが挨拶に来いと言ってくるんです」
なんと。
霊夢、つまり夢のお告げである。
「呼ばれているのなら行かないといけないね」そう答えておいた。
無視するというのも一つの手であるが、こういうお使いに関するものは無視するともっと強行な手段に出てくる場合が多い。敵意が無いのなら相手が怒らないうちに行動しておくのがよい。
「オオカミさまというと三峰神社か。埼玉県だからちょっと遠いね」
「機会見て行ってきます」
後で奇妙なことに気づいた。
通常、神の使いは純白の白をシンボルカラーとする。ところが彼女の夢に出てきたのは白と黒のオオカミ。黒いオオカミは何の使いだ?
グーグル先生にお伺いを立てる。
武蔵御嶽神社が引っかかった。ここのご祭神ではなく、この神社に奉納されている絵の中に白いオオカミと黒いオオカミが描かれている。日本全国でも黒いオオカミが描かれているのはこの絵ぐらいのものだ。
なるほど、彼女の夢の中に出たのはこれらの絵が変じたもの。言ってしまえば絵の付喪神が神格化したものだ。
彼女に連絡した。
「この間のオオカミの夢。呼んでいるのは武蔵御嶽神社だ。三峰神社じゃない」
「そこ三日前に行ってきました」
友達と三峰神社に参拝することにしたそうだ。ところがその日はひどく体調が悪くなり、遠くに行けそうにない。今更中止にしたら友人に悪いので目的地を変えて近場の武蔵御嶽神社にしたらしいのだ。
お使いのオオカミたちもさぞや慌てた事だろう。引っ張り出したはよいが危うく別の神社に行かれるところだったのだ。